新レーベルCOWBOY FAMILY RECORDS特集!③|Takashi Himeoka インタビュー

新レーベルCOWBOY FAMILY RECORDS特集!③|Takashi Himeoka インタビュー

レコードショップT.E.Qが取り扱うレコードの中から、一押しの作品を取り上げて、関係者に話を伺い、内容を深掘りする企画「T.E.Q マガジン」。
今回は前回に引き続き、レーベル第一弾として、アナログレコード「COWBOY FAMIL BUSINESS」をリリースした、COWBOY FAMILY RECORDSのみなさんをゲストに迎えて、レコードや音楽に関する話についてお伺いしていきます。

今回お話を伺うのは、本作に楽曲提供をしており、レーベルの主要メンバーの一人でもあるTakashi Himeokaさん。これまで日本を代表するテクノレーベルCabaret Recordingsや、自身が立ち上げたPhreak Records、RoraやBinary Soundなどの海外レーベルから作品をリリースしてるHimeokaさんに、音楽を作り出したきっかけや、作品をバイナルでリリースするようになった経緯などをお伺いしました。

音楽を作りはじめたきっかけ

ー まず Himeoka さんが音楽を作り始めたきっかけを教えてください

僕は元々は、USやUKのロックが好きで、バンドに憧れて音楽をやり始めました。高校生の時に家にあった父親のギターを手にとって弾き始め、友達を誘ってバンドを組みました。スタジオに入ってみんなで演奏するのが楽しくて、音楽にのめり込んでいったのを覚えています。
ただ楽器の演奏が自分より上手い友達は周りに何人もいて、自分には才能がないな〜と始めた時から思ってました(笑)  それでも昔から、絵を描いたり文章を書いたり、何か自分の頭の中にあるアイデアを形にして表現するのが好きだったので、ギターに挫折してからは、オリジナルの曲を作る方に段々のめり込んでいきました。初めはノートに自分で考えた曲のコード進行なんかをメモして曲を作ってましたが、何十曲も作ると昔作った曲がどんな曲だったのか、自分で作ったのに思い出せなくなるのが悩みでした(笑)
そんな時たまたま友達の家で、MTR(マルチトラックレコーダー)を触らせてもらって、これなら作った曲をデータで保存して、後で聞き直して思い出せるって思いました。それでその友達が飽きて使わなくなるのを待って、借りパクして使わしてもらってました(笑)。

そのMTRにはドラム演奏のプリセットも入っていて、今まではギターの音だけの曲しか作れなかったのが、リズムやベースの入ったもっと楽曲っぽいものも自分一人で作れる様になりました。それで音楽を作る楽しさがどんどん増していって、毎日作曲する様になっていきました。

 ありがとうございます。最初はいわゆるロック系のサウンドを作っていたとのことですが、どのようにして現在のようなダンスミュージックの制作へと移り変わっていったのでしょうか?

RadioheadやBjorkなど、いわゆるポストロックとかエレクトロニカなどの音楽を聞く様になったのがきっかけです。そういった音楽にはギターやベース、ドラムなどの楽器の音以外にも、たくさんの種類の音が使われていて、その影響でシンセなんかも取り入れて曲を作るようになりました。
そうなると今度は8トラックまでしか録音できないMTRじゃ自分の本当に作りたい曲は作れないなと限界を感じ始めました。そんな時にPCで音楽を作れるDAWなるものがあることを雑誌の記事で知って、当時学生でお金もなかったから、父親のパソコンに勝手にフリーのDAWソフトを入れて、PCで音楽を作り始めました。やり方は手探りで、失敗を繰り返しながらソフトの使い方を学んでいったのを覚えてます。
そのフリーのDAWにはMIDIの機能がなかったので、当時はフレーズをいちいち手で弾いて、オーディオとして録音して曲を作ってました。ただ前述した通り、僕には演奏の才能が全くなかったので、演奏をミスったり、リズムがずれたりして、出来上がった曲のクオリティがとにかく低かった(笑)
そんな折、周りで音楽を作ってる友達がAbleton Liveというソフトを使っていると教えてくれました。MIDIのデータを打ち込めて、ソフトシンセで音色も自由に変えられる。これなら演奏が下手な自分でも、何度でもやり直しが効くと思って、Ableton Liveを使って制作する様になりました。ちょうどその頃はドイツのKompaktが出していた、ダンスミュージックとロックをミックスした様な曲が好きだったので、四つ打ちの音楽もその頃から作り始めたことを覚えています。

楽曲制作で気をつけているポイント

 Himeokaさんが楽曲制作をする上で大切にしていることはありますか?

僕は音楽の作り方を専門的に学んだわけではなく、自分が好きな音楽や、自分が表現したいと思ったアイデアを形にするために独学で音楽を作ってきたので、他人にアドバイスできるようなちゃんとした知識はないんですが、強いていうなら、作った曲を人に聞いてもらって、どんな内容でも良いから、意見やフィードバックをもらうことが大切だと思っています。
たまに知り合いと話してると、一人で曲は作ってるけど、まだ下手だから誰にも聞かせたことがないって人がいますが、やっぱり人に聞いてもらって、他人がどう思ったかを伝えてもらわないと、楽曲のクオリティは上がってこないと思います。批判やダメ出しを恐れずに、まずなにか形にできたら、音楽が好きな信頼できる友達に聞かせて、意見をもらう。褒められたら嬉しくて次を作るモチベーションになるし、けなされたら次は良いって言ってもらえる様にもっと頑張ろうと思える。
そのやり方はずっと変わってなくて、曲ができたらすぐに信頼できるDJに送って、感想をもらう様にしています。自分の中だけで制作を完結させても、それが他の人にとっていいと感じられるものかどうかがわからないので、人に聞いてもらって意見やアドバイスをもらうことを一番大切にしてます。

レコードをリリースする様になったきっかけ

  初めて自身の楽曲を世に発表した頃のことを聞かせてください。

 Ableton Liveで音楽を作る様になってから、周りの友人が褒めてくれるような曲を何曲か作れる様になりましたが、それが自分のことを知らない第三者が聞いても、印象に残るような曲になっているのかに自信が持てませんでした。それでそれまでに作った自分の曲と、友達の曲をまとめてCD-Rに焼いて、デモテープとして京都のクラブMETROに持っていきました。クラブでライブをやらせてもらえたら、もっといろんな人が自分の曲を聞いてくれるかなと、簡単な気持ちで持って行ったんですが、ありがたいことにそれをちゃんとテクノのブッキング担当の人が聞いてくれた。
その方が今も関西を中心にKen’ichi Itoi名義で音楽活動をされている糸魚さんで、デモを聞いた後に直接連絡をくれました。今思うと拙いデモ曲でしたが、気に入ってくれて、糸魚さんが当時やっていたShrine.jpというレーベルからリリースしませんかとオファーを頂けた。自分の曲が、第三者が聞いてもちゃんと価値があるものとして認められた気がして、めちゃくちゃ嬉しかったのを覚えてます。そのデモの中の何曲かが、Rexikomというユニット名義でCDとしてリリースした作品に収録され、自分にとって初めて音楽を世の中に発表するきっかけになりました。

Rexikom - Grodek

 Himeokaさんと言えば、RORAからリリースした Tamayura EP が国内外で話題になりましたが、どのような経緯でリリースに至ったか聞かせてください。

Takashi Himeoka - Ludwig

RORAのリリースは1番から全作品が好きで、Facebookでレーベルや関連アーティストをフォローして情報をチェックしてました。そしたらある日突然、レーベル所属アーティストのルーマニアのSeppからメッセンジャーでメールが送られて来て、「今度日本にツアーで行きたいんだけど、パーティやってくれないか」という連絡をもらいました。大好きなアーティストが自分にメッセージをくれたことに興奮して、当時は英語も話せないし、海外のDJを呼んでパーティをした経験もありませんでしたが、引き受けました。そのツアーの期間中、Seppが僕の自宅に滞在したことで、交流を深める事が出来ました。そのとき彼が、「君も何か音楽を作ってないの?」と質問してくれて、まだ自信はなかったけど、当時作っていたテクノ調の曲をその場で聴いてもらいました。それを彼が気に入ってくれて、「この曲をDJで使いたいからデータを送ってくれ」と言われ、彼に音源を渡すことができました。
その後、彼がヨーロッパのパーティで実際にその曲をプレイしてくれて、それをたまたまRORAのレーベルオーナーのRomarが聴いていたらしく、いきなりスカイプでメッセージが来ました。「Seppがかけてた君の曲、RORAからリリースしてみないか」って。当時は楽曲制作に加えて、DJも始めていて、RORAのレコードはいつもプレイするくらいのお気に入りだったので、そんなレーベルから自分もリリースできるなんて夢みたいだと興奮したのを覚えてます。それからさらに何曲かデモを送ってやり取りを続け、最終的にEPという形で作品をリリースすることができました。

  なるほど。今ではインターネット上ですぐデータを送れる時代になりましたが、今まで伺ったリリースの経緯を聞くと直接コミュニケーションを取るというのはとても重要なことですね。

レコードで音楽をリリースしたいと思っている人へ

  今回のCOWBOY FAMILY RECORDSのリリースもバイナルオンリーのリリースですが、レコードで自分の楽曲をリリースしたいと思っている人に、何かアドバイスなどありますか?

僕がレコードで音楽をリリースできる様になったのは、本当にいろんな偶然が重なった結果で、このやり方で曲を作って、こうやってレーベルにデモを送ればリリースに繋がる、なんて方法論の様なことは言えませんが、強いて何かアドバイスするとすれば、リリースすることをゴールだと考えずに、とにかく楽しみながら音楽を作り続けることが重要なんじゃないかなと思います。
DJをやっている人は、自分がプレイしているようなトラックを作ってリリースしたいと思い、楽曲制作を始める人も多いと思います。こんな曲を作るには、どんな機材が必要ですか、 どんなプラグインが必要ですか、という質問を受けることもありますが、それらはただの曲作りのためのツールなので、同じものを手に入れても、同じクオリティのトラックができるわけではない。高価な調理器具を揃えて、高級な食材を使っても、肝心の料理の腕がないと、美味しい料理が作れないように。
実際に僕がリリースしたRORAの楽曲も、特別なツールは使わずに、Ableton Liveと付属のソフトシンセ、ネットで見つけたフリーのサンプル音源を組み合わせて、色々工夫して作ったものです。どんなツールを使うかよりも、自分が何を表現したいかに焦点を当てて、まずは手元にあるものを使って、工夫しながらいっぱい曲を作ってみてください。初めは思い通りの曲が作れなくても、続けていくうちにいろんな発見があり、自分なりの作り方がわかってくるはずです。そうすれば、どんなツールが自分に適しているかが自然と見つかると思います。

レコードでのリリースに関して言えば、レコードを作るには時間と手間がかかるし、売れてもそんなに収益が上がらないものだったりする。だからレーベルオーナーの人たちは、労力をかけてリリースするなら、「トラックとして整ってはいるけど、どこかで聴いたことのある様な音楽」よりも、「荒削りでも、アイデアや工夫が感じられる個性的な音楽」をリリースしたいと思って、レコードを作っているんじゃないでしょうか。T.E.Qでレコードを買っているDJの人たちも、他にはない音が鳴っている面白い音楽を探して、日夜ディギングに勤しんでいると思います。
そういう音楽を作るためには、失敗を繰り返しながら、何度もトライする根気と熱意が必要だと思います。そうやって時間をかけて、色々試しながら学んで身につけた技術は、その時すぐには曲の中で活かせなくても、必ず自分が音楽を作る上での引き出しになるはず。回り道しながら、音楽とじっくり向き合った後に、自分なりの表現の仕方が見つけられると思うので、まずは結果を求めて焦らずに、音楽を作ることを楽しんでみてください。そうやって音楽を作り続けていれば、いつかきっとあなたの曲をリリースしたいという人と出会えると思います。COWBOY FAMILY RECORDSもそんなオリジナルな音楽を探しているので、この記事を読んで気になった方は是非デモを送ってきてください!


Takashi Himeoka (Cabaret Recordings / A.S.F RECS / COWBOY FAMILY)



京都出身、現在は東京を拠点に活動するプロデューサー/DJ。
2014年にスイスのレーベルRoraからリリースした[Tamayura EP]でデビューし、以降もV.A.での参加も含め年1〜2枚のペースでコンスタントに作品を発表し続けている。作風は初期のディープなミニマルハウスから、デトロイトテクノ・UKハウス・エレクトロなどに影響を受けたサウンドにシフトし、2019年に自身のレーベルPhreak Recordsから放った[Utakata EP]で結実。2021年にはdj masdaが主宰するCabaret Recordingsからもシングル[Wormhole EP]を発表。2023年、渋谷のクラブMistukiで開催されているP-Yan&Ryokei主宰のパーティAlien Sex FriendsがスタートしたレーベルA.S.F RECSより[Newromancer EP]をリリース。2024年自身が所属するCOWBOY FAMILY RECORDSより発表されたV.A作品にも参加している。

Cowboy Family Business / COWBOY FAMILY RECORDS 001
https://teq-tokyo.com/products/cowboy-family-business

Cowboy Family Records Tour
https://teq-tokyo.com/blogs/news/cbf-tour