2024年に共作のミニアルバム「Y」とそれに続くリミックス集「Y Remixes」を発表した、シンガーのKaorukoとプロデューサー/DJのStones Taro。UKガラージを基調にした抒情性豊かなトラックに、ポップセンス溢れるボーカルが光る本作は、2024年のクラブシーンでも大きな話題を集め、T.E.Qマガジンの読者もその楽曲を耳にした人は多いだろう。現行のクラブシーンで交わりながら、ユニークな活動を展開する二人だが、そのバイオグラフィを紐解くと、両者の共通点は一見多くはない。
横須賀生まれで新宿育ちのKaorukoは、現在は東京を拠点に活動しているシンガーで、自身のアイドル好きが高じて、10代の頃はアイドルグループにも所属していた異色のキャリアを持つ。その後ソロのアーティスト活動を本格的に開始し、2019年にリリースされたEP「Starting now」を皮切りに、コンスタントにリリースを続けている。その都会的な感性でヒップホップやチルポップス、ハウスやビートミュージックなど様々なジャンルのエッセンスを取り入れ、作品ごとに進化/深化する彼女の音楽性は、儚げで憂いを帯びた美しい歌声と、迷いや戸惑いと共に、希望や確信を瑞々しく表現する歌詞の世界観が特徴的で、近年はナイトクラブでのライブパフォーマンスも積極的に行っている。
Stones Taroは和歌山県出身で、現在は京都を拠点に活動しているプロデューサー/DJで、メタルコアやハードコア・パンクのバンドから音楽活動を始め、その後はダンスミュージックのプロデューサーとして、90年代のHouse/UK Garage/Jungleに強くインスパイアされた楽曲を制作し、UKのShall Not Fadeなど海外有名レーベルから多く作品をリリースする人気アーティスト。同じく京都在住のDJ/プロデューサーであるLomaxと共に、京都拠点の忍者ハウスレーベル「NC4K」の運営にも携わり、2024年には自身のファーストアルバムである「Dwellers Of The Seabed」をその「NC4K」からリリース。「海底での架空の文化や生活」がテーマだという本作は、UKのベースミュージックを土台に、アンビエントやトライバルなパーカッションサウンドも取り入れ、アルバムを通じて物語性を感じさせる音世界をそのスマートな感性で表現した内容となっている。
生まれや拠点、これまでのキャリアも異なり、別々の道を歩んできたようにも見える二つの個性は、どのようにして出会い、お互いに影響を与えていったのか? 今回のTEQマガジンでは、KaorukoとStones Taroにインタビュー形式で対談を行ってもらい、ミニアルバム「Y」と「Y Remixes」の話を中心に、共作のプロセスや楽曲の誕生秘話について語ってもらった。
- 今回はお時間をいただきありがとうございます。二人でインタビューを受けるのは初めてとお伺いしましたので、まず初めに二人の出会いとコラボレーションを始めるきっかけについてお伺いできますか?
Kaoruko : きっかけは2021年にtokyovitaminから発売されたコンピレーションアルバム 「Vitamin Yellow」(Stones Taro & Kaoruko - YOU WORRY 収録)。それまでお互い面識はなかったんだけど、tokyovitaminのKenchanから、2人が相性良さそうだから、一緒に曲作ってみなよって紹介してもらったのが始まり。それでタロウくんからビートを送ってもらったんだよね。そのビートを聴いて私もすぐにピンときて、歌を録ってタロウくんに送って、制作を一緒に始めた感じ。
Stones Taro : そうね。その時に送ったビートはカオちゃんに出会う前から原型ができてて、コード進行もポップス寄りだったから、歌をのせられたらなって考えてて。それで渡してみたら、歌詞と歌メロがきて、すごくビートにハマって。そっからはトラックのアレンジを少し調整して、最後に歌を本録するって流れでスムーズに楽曲ができたかな。
Kaoruko : その曲が「Stones Taro & Kaoruko - YOU WORRY」としてリリースされて、PVもいいものができて、いろんな人が聴いてくれて。それまでダンストラックのガラージっぽい感じの曲って作ったことなかったから、新鮮だった。
それで私からタロウくんに「よかったら一緒に作品作りませんか」って話して、「Y」を作り始めた。
そこからコラボレーションが始まったんですね!アルバムの「Y」の制作過程は、どのようなものでしたか?
Stones Taro : 「Y」は、タイトルトラックになってる楽曲の「Y」から作っていったと思う。この曲は、”Y”ってアルファベットがもつ面白さがアイデアの原点になってて、「分岐」のように見えるアルファベットの形に、「YES」って意味を想起させるこの文字を、抽象化して曲を作ろうと思ったのがきっかけだった。
Kaoruko : タロウくんのつけたデモのタイトルから発想して、曲のイメージを膨らませて歌詞やメロディをつけていく流れが結構あったよね。「Y」ってタイトルも自分が書きたい歌詞のテーマにマッチしてた。
Stones Taro : 元々ダンストラックを意識して作り始めたんだけど、デモの段階でエモーショナルな仕上がりになってたから、歌をのせてもらうかなってカオちゃんに送ったら、うまく歌詞と歌メロができていった感じ。この曲がまず最初にできて、これを軸にミニアルバムとしてまとまった作品ができそうだなと思って色々作っていった。
Stones Taro : その次にできたのが「Monstera」だったかな。この曲は僕の方でだいぶ作り込んだトラックができたから、それをカオちゃんに送って、歌詞とメロディは完全にお任せでって感じで。
Kaoruko : 「Monstera」の制作話だと、実はこの曲は歌詞の内容と関連するところで、PSGの「愛してます」からサンプリングしてる部分があって。気づいた人は是非ライブでレスポンスしてほしい(笑)
Stones Taro : その次が「Utakata」だったっけ?
Kaoruko : この曲は確か出来上がるのに少し時間がかかった。私は小さい頃から聴いてて、馴染みの深い音楽がJ-POPやアイドルの曲だったりして、メロディラインもめっちゃ動くのが染み付いてたんだけど、自分の作ってみたい曲や当時影響を受けてた曲は、落ち着いたメロディラインでも曲として成立するものだったりして。この時はそこのバランスの取り方というか、アプローチの仕方にちょっと苦戦したりした記憶がある。確か「Utakata」の歌のメロディの原型はタロウくんが作ってくれて、そこに歌詞を載せる感じで出来たよね。
Stones Taro : 当時二人でピンときてたJorja Smithとかの海外のトラックは、リズムを際立たせるために、あえてメロディを動かしすぎないようになってたり、そもそもコードが2コードで進行しているものとかが多くて。日本だと4コードの曲とかが主流だけど、それだとどうしてもメロディが動きすぎて、少し古臭く感じるというか。
「Utakata」はそこを意識しながら、動きすぎないけど、リズムとメロディの絡み方で曲が成り立つように、自分なりに解釈して作ったかな。Verseの部分のメロディは八分で、ベースもシンプルなんだけど、Hookでベースが跳ね出して、メロディラインも一気に間隔が狭くなるような形にしてる。抑揚でサビのスピード感が出て、曲全体を通して立体感が出るような作りを意識してて、単純にメロディだけに頼らずにポップミュージックって作れるなって。この曲を通じて、メロディの作り方も二人で意思疎通が深まって、その後の制作はよりスムーズに進むようになったよね。
Kaoruko : それで次にできたのが「Memorize」。この曲はタロウくんに歌詞を褒めてもらった記憶がある(笑) 詰まってた部分が解けてきて、いい感じだしフローもいいって。私は普段歌詞を作るときは、溜めてた言葉のフレーズをメロディのフローに当ててみて、書き足しながら肉付けしていくことが多いんだけど、この曲の歌詞は一気に書けた!
Stones Taro : 楽しそうな感じが伝わってくるのがいいなって。
Kaoruko : ライブでやるのも楽しい曲!跳ねてる感じで!
Stones Taro : 「Y」の中の曲で最後にできたのは「Diamond」だったよね。実はアルバムの制作中にはボツ曲もあったんだけど、この曲は勢いですぐに完成した。シンプルなんだけど、サビ前に歪んだブレイクビーツを入れたりトラックは工夫していて、今っぽいレイブ感とハイパーな感じを出しつつ、それでいて暖かみがあるみたいな。この曲好きって人多いよね。
Kaoruko : 「Y」の中でもキャッチーだよね。サビ前の「私のなかの」って部分とか、ビートが抜けて印象的なアレンジになってて、ライブもいい感じに盛り上がるし!
私は今まで家で一人でレコーディングすることが多かったけど、他の人に意見を聞いてみたいと思うこともあって、「Diamond」はスタジオでタロウくんから、歌い方のイメージとか聞かせてもらいながら仕上げた。最後の「I need it」ってコーラスの部分のアイデアは、その時にタロウくんが考えてくれて、うまくハマった!
- ありがとうございます。「Y」のUKGのビートと歌のメロディのバランス感は、二人での制作作業を通じて深まっていったのですね。昨年の年末にはその「Y」のリミックスアルバムも発表されましたが、この作品はどのようにして誕生したんですか?
Kaoruko : 元々のきっかけは、クラブイベントでライブするときに、お客さんが踊りやすいように、自分のセットをダンスっぽく曲が繋ながってる感じでやれたらなって感じたことだったと思う。ライブによく来てくれる友達から、クラブのライブで楽曲をそのまま繋ぐと途中でダレちゃうこともあるよねって話を聞いたりしたこともあって、それで「Y」の曲を4つ打ちバージョンで作って、スムーズな感じでライブでやれたらなって。
Stones Taro : スムーズに繋がってないとお客さんの足が止まったりすることもあるよね。「Y」の曲はイントロも短いものが多いし。僕も地方の現場に行った時に、お客さんのDJの人から「自分のDJでかけやすいように「Y」の曲のイントロにキックを足して、ダンスエディットしてかけてるんですよ」って話を聞いたりしたこともあったな。「Y」は元々のマスタリングもリスニング向けで、クラブでの鳴らす用ではなかったし、それなら思い切って、ダンスパートをちゃんとつけたり、2Stepの部分を4つ打ちに差し替えたりしたRemixを作ろうって。それでカオちゃんと一緒に去年WOMBでライブしたんだよね。
Kaoruko : WOMBのイベントの時は、タロウくんのDJセットの途中の時間にショットライブって形で参加したんだけど、そのパーティ自体はHip Hopとかいろんなジャンルの人が参加してて、若いお客さんも多い中、メインフロアでタロウくんのDJセット中にライブセットを挟む形で、深夜ノリって感じで盛り上がったライブができてよかった!
それでその時のライブ用のダンスリミックスがよかったから、これリリースしたいなって。「Y」をリリースしてすぐに、タロウくんの友達のZaltsmanさんが「Diamond」のリミックスを作ってくれてたのもあったりして、まとめてリリースする形になったんだよね。
Stones Taro : ZaltsmanのRemixは、僕が彼の曲のRemixを頼まれて作ったタイミングで、今度は僕の曲をZaltsmanにRemixしてもらいたいなと思って、ステムを送ったんだ。Zaltsmanの曲って、ユーフォリックなモダンハウスだけど、一癖あって面白くて好きで。そしたらすぐにいい感じのRemixが送られてきて、今回のRemixアルバムに収録する流れになった。
Kaoruko : このRemix、初めて聞いた時めっちゃ新鮮だった。日本語の曲を海外の人がRemixしてるから、歌の部分のエディットの仕方も言葉の途中で切ったりして。多分原曲を知ってる日本人だと、「ここで切るの」ってびっくりすると思うんだけど、そういうのをあんまり聴いたことなかったから、めっちゃ面白いなって!他の曲とは印象が違うポコポコした音とか入ってて、他の収録曲とはガラッと印象が違って、この曲を入れれたの嬉しかったです!
- ライブ用のアレンジがきっかけで、そこからRemix集の発売に至るんですね。「Y」の歌ものUKGにフォーカスしたポップな仕上がりも、「Y Remixies」のしっかり踊らすダンスバージョンも、どちらも大好きでよく聴いています!最後に今後のお二人の共作の予定などあれば教えていただけますか?
Kaoruko : 今はまだ具体的には決まってないかな。
Stones Taro : うん。なんとなくアイデアはあったりするけど。カオちゃんの興味が、これからどうゆうふうに変わっていくかとかも気になる。
Kaoruko : 「Y」をリリースしてから、聴いてくれた人達の私のイメージって、ガラージ色が強いみたいなんだけど、私自身はそこだけにフォーカスしているっていうのはなくて。もちろんダンスっぽい曲もやりたいんだけど。タロウくんとなら、今度はガラッと印象の変わるような曲を作ってみても面白そう。この間のタロウくんのアルバム(Stones Taro - Dwellers Of The Seabed)に入ってるアンビエントの曲とか、そういうトラックにのせて歌ってみたり。
Stones Taro : 二人でなんでも色々できるのが面白そうだよね。カオちゃんのソロで出してるアコギの曲(Kaoruko - set me free)とかも好きだし。「Y」やり方とは変えて、今度はカオちゃんが先に作った歌詞やメロディから発想して、僕がアレンジしていくみたいな形でやってみるのも楽しそう。
Kaoruko : それもいい!楽しみだね!
Kaoruko
横須賀生まれ新宿育ち。
ポップス、ロック、ダンスミュージックなど、様々なジャンルから影響を受け、自身でも楽曲制作を行う。
2019年にEP「Starting now」でデビューした後、「You Better Know」「SyGyZy」「opal」をEPリリース。
tokyo vitaminのコンピレーションアルバムでの「YOU WORRY (feat. Stones Taro)」での共作をきっかけに、最新作ではKaoruko & Stones TaroとしてEP 「Y」 を2024年3月にリリースした。
現在はWOMBの24th Anniversaryや翌月でのリリースパーティなど都内のダンスフロアを中心に精力的に活動中。
Stones Taro
京都在住のDJ/プロデューサー。90年代のHouse/UK Garage/Jungleに強くインスパイアされた楽曲を、UKはじめ世界中のレーベルから多数リリース。2020年にYAM Records(UK)からリリースされた”Word Rush EP”は世界各地のレコードショップで完売し、リプレスされるなど注目を集めた。
以降Shall Not Fade、Hardline Soundsなど現行UKアンダーグラウンドシーンを担う主要レーベルから次々と12インチレコードを発表。日本在住ながら現行UKシーンの重要プロデューサーとして扱われる稀有な存在に。
DJとしても、Star Festival、Rainbow Disco Club -Sound Horizon-、そしてFuji Rock Fes.などの国内主要フェスへ出演、2023年には初のUKツアーを実現した。
2017年より、同じく京都在住のDJ/プロデューサーであるLomaxと共に、京都拠点のダンスミュージックレーベル「NC4K」の運営を開始。継続的なリリースとパーティ開催を重ね、国内外を繋ぐ重要レーベルとして注目を集める。
Ben UFO、Objekt、Om Unit、Coco Bryce、Conducta、Breakaなど、ダンスミュージック最前線のプロデューサーたちからサポートを受けている。