新レーベルCOWBOY FAMILY RECORDS特集!②|Rio Kawamoto インタビュー

新レーベルCOWBOY FAMILY RECORDS特集!②|Rio Kawamoto インタビュー

レコードショップT.E.Qが取り扱うレコードの中から、一押しの作品を取り上げて、関係者に話を伺い、内容を深掘りする企画「T.E.Q マガジン」。
今回は前回に引き続き、レーベル第一弾として、アナログレコード「 COWBOY FAMIL BUSINESS」をリリースした、COWBOY FAMILY RECORDSのみなさんをゲストに迎えて、レコードの製作秘話についてお伺いしていきます。
今回お話を伺うのは、本作に楽曲提供をしており、レーベルの主要メンバーの一人でもあるRio Kawamotoさん。これまで楽器店での勤務や、ミュージックスクールの講師経験、コマーシャル動画やアーティストへの楽曲提供など、音楽制作において幅広いキャリアで活動されているアーティストです。
そんなリオさんに、今作で収録されている楽曲の使用機材や、制作の時に気をつけているポイント、これから楽曲制作を始めてレコードを作ってみたいという人に向けたアドバイスなどをお伺いしました。

制作環境について

— まずRioさんの普段の楽曲の制作環境についてお伺いできますか?

使用している DAW は Ableton Live です。
Liveはセッションビューでスケッチのようにビートやフレーズが作れるところが気に入っていて使っています。
最近作った曲は、基本的には Ableton Liveのソフトウェア上でほとんど作ってますが、ハードウェアでは、シンセは Moog Mother 32 と DFAM を使うこともあります。あとギター / ベース用のコンパクトエフェクターも何個か。

— ありがとうございます。以前Rioさんのスタジオにお邪魔した時は、アナログシンセやリズムマシンなどの機材がたくさん並べられてましたが、制作環境の変化には何か理由がありますか?

楽器店などで勤めていたこともあり、ドラムマシンやシンセの実機が好きだったのですが、結婚や出産を機に生活環境が変わったこともあって、今はコンパクトな制作環境に移行しました。 あと近年のヴィンテージ中古市場の価格高騰に興醒めしてしまった部分もあります。
使っていた実機で手放してしまったものもありますが、ドラムマシンやシンセの音はその前にサンプルとして録音していて、現在は Ableto Live の Drum Rack などで使っています。
それでも、Moog は音が好きなので実機を使うことも結構あります。
1からしっかり音作りしたい時とか、サウンドに煮詰まった時に実機のツマミをぐりぐりいじってると一筋の光が指してくることがあります(笑)
変な話、電子楽器なのに ”この楽器、生きている!” と感じさせてくれる素晴らしいメーカーだと思います。

— なるほど。ソフトウェアのコンパクトな利便性を生かしつつ、アナログ機材の持つフィジカルな感覚もミックスして曲作りされているのですね!

今回リリースした曲について

— それでは、今回のレコードに収録されているB1 “Lock Up”の制作について詳しくお話をお伺いできますか? タイトなベースとキックに、印象的なボイスサンプルと大胆なドラムフィルインの展開などが詰まっていて、DJが喜んで使いたがるフロアユースな曲だと思いながら拝聴させていただきました!

今回リリースした Lock Up はほぼ全て Ableton Live 内で作ってます。
ベースは u-he のソフトシンセ、DIVA で作ってます。


(実際のスクリーンショット)

密度の高い濃厚な音がするのでかなり多用してます。
Roland のシンセや Moog のシンセのモデリングが入ってるのですが、「 Jupiter-8 のオシレーターに Moog のフィルターを」 みたいなソフトシンセだからこそできる組み合わせも楽しいです。
ちょっと高いですが、買って損はしないソフトシンセだと思います。
僕は妻にプレゼントでもらいました笑

僕は歪み系のエフェクトがとても好きなので、この曲では Diva で作ったベースに Soundtoys の Decapitator で歪ませてます。

この曲のドラムではDecapitator の他に、Kush Audio の OMEGA TWK というプラグインも使ってます。

そのほかにも最近アップデートされた Ableton Live 12 から登場した Roar という歪みエフェクトも非常に面白いですね。この曲を作ってた頃には無かったので使ってないですが、新しく作っている曲では音作りの際にちょくちょく使っています。
また、今回のレコードのマスタリングをお願いした Ryosuke Tsuchiya 君に Tone Project というプラグインメーカーをおすすめしてもらったのですが、その中の Kelvin という歪みプラグインがあって、それが最近だと一番お気に入りです。
実機のような粒子状の細かい歪みの感じが出るので好きです。
ベースギターを Bass Bigmuff とかコンパクトエフェクターに通した音が好きなんですが、僕のイメージするそんな感じの音が出るのでとても気に入ってます。
ちょっと脱線しますがこのBass Bigmuff の映像がとても好きです、、、、笑

— なるほど!ベースラインひとつとっても、シンプルにソフトシンセを使うだけではなく、エフェクト処理を通して、細かく音の質感を調節することで、アクセントをつけているんですね!

僕はとにかく歪み系のエフェクトが好きなんですが、前に「そんなに音悪くして良いんですか?」という質問を受けたことがあります。トラックメイキングを始めたばかりの人、特にギター / ベースを経験していない人には歪みをかけることに抵抗がある人がいるようです。そんな人には良い音 = 正義みたいなある種呪いがかかってるのですが、この”良い音”という言葉が厄介に感じます。
そもそも”良い音”ってなんでしょうか? 僕は意識的に”良い音”という言葉を使ってません。
というのも、”クリーンな音、クリアな音”を”良い音”と表現する人と、”好きな音”を”良い音”と表現する人がいて、”良い音”と言った時に僕の意図とは違う意味で捉えられてしまうことがあるからです。 歪んだサウンドはクリーンでは無いでしょうが、確実に僕の中で好きな音なので多用してます。
今の世の中ではネット上にあらゆる楽曲制作の記事やチュートリアルがありますが、クリーンな音を指して良い音と言っている人と、好きな音を指して良い音と言っている人が混在しているように思います。
みんなが”クリーンな音”と”好きな音”をちゃんと意識的に使い分ければ、定期的に起こるあらゆる論争は終わる気がしてるんですけどね。 CDJ vs ターンテーブルとか。こっちの方が良い音だ!っていうから論争になるのであって、こっちの方が俺は好きな音だ!で良いじゃないですか。

—「良い/悪い」という絶対的な基準で判断するのではなく、「好き/嫌い」という自分の感覚を大切にして音楽を捉えてらっしゃるんですね!それがRioさんの楽曲が持っているオリジナリティにも現れている様な気がして、すごく参考になりました。

これから楽曲制作を始める人に

— 最後にこれから音楽制作を始めて、レコードをリリースしてみたいという人に向けて、一言アドバイスをいただけますか?

Ableton のこのサイトは素晴らしいです。ソフトが必要無く、サイト上でビートを打ち込めるので、これから楽曲制作を始めたい人はぜひ一度触ってみてください。 https://learningmusic.ableton.com/ja/

楽曲制作というと、ちょっとハードルが高くて挫折してしまうことも多いかと思います。そういう人を何人も見てきましたし、実際僕も Ableton Live を手に入れてから 2 年放置した経験があります…笑
なので、あまり崇高な目標を掲げず、小難しいことは考えずに、最初はサンプルループとかでも良いので一曲作ってみるのが良いと思います。
自分で作ってみたビートとベースを同時に鳴らしてみた瞬間。
思いついたフレーズとか使ってみたかったボイスサンプルを重ねてみてなんか曲っぽくなってきたぞ!というあの感覚、そのプロセス。
その瞬間というのは、大袈裟かもしれないけどものすごく尊い瞬間だなと。これを忘れずに制作を続けてると、そのうち「ん、なんだかうまくやる方法がわかってきたぞ」とブレイクスルーになる経験がきっと訪れると思います!
今はネット上に色々と楽曲制作のアドバイスとか TIPS があって、うわーハードル高いなぁとか思うかもしれませんが、とりあえず自分が楽しいと感じるようにやってみて、作り続けるというのが大切な気がします。
幸い、クラブミュージックは自由度の高い音楽だと思います。こうした方が良い!という枠や様式美にとらわれず、好きなようにやってみる。僕はそうやって続けてたらリリースできるような曲が作れるようになってた、という感じです。僕もまだまだ色々とブラッシュアップする部分はありますが、楽しい!という感覚を忘れずに、これからも曲を作っていきたいです。

※使用機材の参考リンク

Ableton Live
https://www.ableton.com/ja/live/
U-HE - DIVA
https://u-he.com/products/diva/
Soundtoys - Decapitator
https://www.soundtoys.com/product/decapitator/
Kush Audio - OMEGA TWK
https://thehouseofkush.com/products/omega-twk
Tone Project - Kelvin
https://www.toneprojects.com/kelvin-tone-shaper.html

Rio Kawamoto 




横浜出身。
2007年頃よりDJ活動を開始。様々なジャンルでの活動を経て、Techno / House を軸としたダンスミュージックに傾倒する。
2015年5月には自身初となるEP "Lemmings EP"をロンドンのSakadat Recordよりリリース。
その後ドイツ、イタリア、スペイン、ロシア等ヨーロッパのレーベルを中心に作品をリリース。
DJとしての活動は都内各所でのDJのみならず、韓国、上海Elevator Clubや44KW、台湾 Studio 9、2017年1月にはベトナムはフーコック島で開催されたEpizode Festivalに出演するなど、活動の幅を広げている。
また、2020年にはメキシコの注目コレクティブ、buffete が運営する Teffebu より 12inch EP " Chabu " をリリース。 XLR8R や meoko など海外メディアにも取り上げられる。
2024年自身が所属するCOWBOY FAMILY RECORDSより発表されたV.A作品に Mr.HO, Takashi Himeokaと参加している。

Cowboy Family Business / COWBOY FAMILY RECORDS 001
https://teq-tokyo.com/products/cowboy-family-business

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https://teq-tokyo.com/products/cowboy-family-business

Cowboy Family Records Tour
https://teq-tokyo.com/blogs/news/cbf-tour